clavichord クラヴィコード

clavicordio  clavicordo/clavicordio   clavicorde  

スペイン語   イタリア語         フランス語

 

今日ではイタリア語では一般にはclavicordoが使われます。

 

 

チェンバロ、スピネットやヴァージナルは小さなツメで弦を弾くことにより音を出しますが、クラヴィコードはまったく異なる楽器です。

 

1 概要

クラヴィコードは弦を金属片で突き上げ、突き上げたところが弦振動の一つの支点となります。 もう一つの支点は響板上のブリッジとなります。 この突き上げたショックによる振動はブリッジから響板へ伝えられ、響板全体が振動して音となります。弦をはじかないために音は小さいですが、キーを押している間、金属片が弦を押し上げているために、指がキーを介して弦と繋がっている、という特徴があります。 一般には2本の弦を突き上げます。


 

2 各国語ウィキペディアによる説明

これより日本語で説明を加える事に替えて、英語、フランス語、イタリア語、スペイン語のウィキペディアにおけるクラヴィコードの書き出しのところを比較してみましょう。 あまり正確ではないかもしれませんが、訳を付けてみました。 まったく異なる観点から説明しているので面白いです。

 

2.1英語版wikipediaによれば

英語版wikipedia のclavichordの序および歴史の冒頭部分です。 一部を省略しています。

  The clavichord is a European stringed keyboard instrument known from the late Medieval, through the Renaissance, Baroque and Classical eras. Historically, it was mostly used as a practice instrument and as an aid to composition, not being loud enough for larger performances The clavichord produces sound by striking brass or iron strings with small metal blades called tangents. Vibrations are transmitted through the bridge(s)* to the soundboard. The name is derived from the Latin word clavis, meaning "key" and chorda, meaning "string", especially of a musical instrument".

 クラヴィコードは弦を張ったヨーロッパの鍵盤楽器であり、中世後期からルネサンス、バロックを経て古典派の時代まで、その存在が知られてた。 歴史的には、クラヴィコードは主に練習用楽器として、あるいは作曲のためのツールとして使われたが、演奏会の様な場面で使うには音量は十分でなかった。 クラヴィコードは、タンジェントと呼ばれる小さな金属の板で真鍮弦あるいは鉄弦を突き上げて音を出す。 振動はブリッジにより響板に伝えられる。 クラヴィコードという名前はラテン語でキーを意味するclavisと、弦を意味するchordaに由来する。               

*bridge(s)と複数の”s”にかっこが付いているのは、16世紀のクラヴィコードの様にブリッジが連続せず、いくつかに分かれていたものがあるためです。

  History and use; The clavichord was invented in the early fourteenth century. In 1504, the German poem "Der Minne Regeln" mentions the terms clavicimbalum (a term used mainly for the harpsichord) and clavichordium, designating them as the best instruments to accompany melodies.

 歴史と使い方; クラヴィコードは14世紀の初頭に発明された。 1504年のドイツの詞Der Minne Regeln(騎士道精神?)においてclavicimbalum(これは主にチェンバロを意味する)及びclavichordiumという記述があり、これらはメロディーの伴奏をするのに最適な楽器であると紹介されている。 

 

2.2 フランス語版Wikipédiaによれば

一方フランス語(Clavicorde-Wikipédia)では、冒頭は次の通りです。

  Le clavicorde est un instrument de musique qui remonte au tympanon médiéval. Il est le prédécesseur du piano-forte, qui lui-même engendra le piano moderne. Le plan s'apparente à celui du virginal. Les instruments à claviers, jusqu'à la pratique du piano-forte, furent les clavecins, l'orgue et le clavicorde.

Le clavicorde est construit sur un fond rigide. La table d'harmonie n'occupe que la partie droite de l'instrument, si bien que l'on peut voir le clavier à travers les cordes.

 クラヴィコードは楽器の一つで、起源は中世のtympanon(チター、ダルシマー等)にさかのぼる。 クラヴィコードは現代のピアノを生み出したピアノフォルテ**のさらに前の楽器である。 クラヴィコードは、形はヴァージナルに似ている。 ピアノフォルテが実用的なものになるまでは鍵盤楽器と言えばチェンバロ、オルガンとクラヴィコードであった。 クラヴィコードはしっかりした底板の上に造られている。 響板は楽器の右の部分を占めるに過ぎない、そのため弦の下にキーが奥へ伸びているのを見る事が出来る。 (ヴァージナルでは響板が楽器全体に貼られているためにキーが見えない事と対比している。) **ピアノフォルテはここでは初期のピアノの意  

  Dans le clavicorde, les cordes sont frappées par une pièce métallique appelée « tangente », selon un mécanisme beaucoup plus élémentaire que celui du piano-forte et plus encore que celui du piano moderne. Quand la tangente frappe la corde, elle sépare la corde en deux parties : l'une libre, vibrante, dont la fréquence — hauteur de la note — dépend de la longueur entre l'extrémité et la tangente (création d'un nœud de vibration), l'autre étouffée par une bande de feutre placée à demeure — il n'y a donc pas d'étouffoir mobile comme sur un piano. La continuité entre le doigt de l'instrumentiste et la tangente permet un certain vibrato.

 クラヴィコードにおいては、弦はタンジェントと呼ばれる金属片によって叩かれ、メカニズムにおいてはピアノフォルテやモダンピアノよりも簡単である。 タンジェントが弦を突き上げると、タンジェントは弦を二つの部分に分ける。 その一つは自由に振動する部分であり、その振動数、つまり音の高さは弦の端(ブリッジ)とタンジェント(弦振動のもう一端となる)の間の長さによって決まる。 さて、もう一つの部分は、そこに敷かれたフェルト状のひもにより消音される。 従って、ピアノの様に可動式のダンパーはない。 奏者の指とタンジェントがつながっているために、ヴィブラートが可能となる。

 

2.3 イタリア語wikipediaによれば

 イタリア語wikipediaではクラヴィコードの序および歴史の冒頭部分のごく一部です。  

Il clavicordo o clavicordio è uno strumento musicale a corde, dotato di tastiera. È stato uno dei protagonisti del panorama musicale europeo per più di quattrocento anni.

クラヴィコードは鍵盤を有する弦を用いた楽器である。クラヴィコードは400年以上に渡ってヨーロッパ音楽を展望する上での主人公の一つであった。(clavicordo あるいは clavicordioとなっているのは、現代ではclavicordoが一般的であるが、古い書物ではclavicordioと書かれていることが多いためである。)

 Storia 歴史  Le origini del clavicordo non sono affatto chiare. Sembra certo che abbia origine dal monocordo, strumento probabilmente inventato da Pitagora di Samo nel VI secolo a.C. (e comunque di certo esistente ai suoi tempi) per studi di acustica e successivamente divenuto, soprattutto nel Medioevo, un vero e proprio strumento musicale, come risulta dal Roman de Brut del 1157, dove viene indicato con il termine "monacorde".  Nel poema Der Minne Regel di Eberhard Cersne vengono menzionati tanto il monocordo quanto il clavicordo. 

 クラヴィコードの起源は全く明らかでない。 モノコルドにその起源があることは確かのようである。  モノコルドはおそらく紀元前6世紀にピタゴラスによって音律の勉強用に発明され、(いずれにせよ、彼の時代に確かに存在していた。)その後、特に中世においてmonacordeという語が1157年のブリュ物語〈Wace作〉の中で現れるように、実際に音楽に使える楽器となった。   〈Pitagora di Samoとなっているが、Samoはピタゴラスが生まれたエーゲ海の島である。 イタリアでも一般に単にPitagoraと呼ばれる。 また、monocordoは一本弦と言う意味だが、2本あるいはそれ以上の弦を有するものであり、また、簡単ないくつかのキーがついたものが現れた。 このため、いつまでもmonocordo あるいはmonocordioの語が使われるが、後の時代によってはクラヴィコードを意味していることが多い。〉 セルスネの詞Der Minne Regel〈騎士道精神?〉においてはモノコルドとクラヴィコードが同じくらい多く用いられるようになる。

 

2.4 スペイン語wikipediaによれば

 次にスペイン語wikipedia でクラヴィコードの冒頭部分を見ると次のようになっています。 なお、スペイン語圏では今でもイタリア語の古い形であるclavicordioが使われます。

 El clavicordio es un instrumento musical europeo de teclado, de cuerda percutida y sonido muy débil. Este instrumento no se debe confundir con el clave (harpsichord, clavecín, clavicémbalo, clavicímbano), la espineta o el virginal. 

 クラヴィコードは弦を打って、とてもか細い音を出すヨーロッパの鍵盤楽器である。 この楽器はclaveと呼ばれる鍵盤楽器(harpsichord, clavecín, clavicémbalo, clavicímbano)、あるいはまたスピネットやヴァージナル(espineta o el virginal)とも混同してはならない。(スペイン語のclaveは、女性名詞では英語のkeyを意味する。 一方単数男性名詞では基本的にはチェンバロを意味するが、 チェンバロに限定したい時はフランス語から入ったclavecínあるいはイタリアから入ったclavicémbaloが最も良く使われる。 中南米ではclavecínという人が多いかもしれない。)

 Las teclas del clavicordio son simples palancas; cuando se hunde una de ellas se puntea la cuerda con una pequeña púa de metal ("tangente") insertada en el extremo contrario de la tecla. Esta tangente determina la afinación (tono) de la cuerda al dividirla en su longitud. La longitud de la cuerda entre el puente y la tangente determina la altura (afinación) del sonido. Una de las dos partes de la cuerda dividida no suena porque está en contacto con una faja de fieltro agudo.

 クラヴィコードのキーは簡単な「てこ」となっている。 つまり、キーの一つが押し下げられるとキーの先に取り付けられた小さな金属片(タンヘンテ)が弦を突き上げる。 このタンジェントが弦を分割する〈突き上げる〉長さにより、その弦の調律(音)を決定する。 ブリッジからタンジェントまでの距離が音の高さ(調律)を決定する。 弦のもう一方は細い帯状のフェルトと接触しているために鳴らない。 (下図の様にフレッテッドクラヴィコードにおいて同じ弦でも突き上げる位置が異なると違う音となることを言っている。)

 

 

 

 

大型フレッテッドクラヴィコード   全長140cm

Christian Gottlob Hubert (1714–1793)は1781年ごろから全長140cmのフレッテッドクラヴィコードを主に作るようになります。 ブリッジ形状や響板裏のリブ等は一台ごとに異なりますが、基本的には同じ図面から作ったように思えます。 響板まわりは少しづつ改善したのか、あるいは響板の材料に合わせて必要最小限のリブ等の補強材を付加した様に見えます。

 

17世紀ドイツのフレッテッドクラヴィコードをベースに作ったもの。 

フレテッドクラヴィコード+専用スタンド+Baroque Pedalboard III+ベンチのセットです。

このペダルボードはエレキベースの弦を使用したもので、キーを押し下げるとタンジェントが弦に当たり小さな音を出します。

クラヴィコード用語集 (クラヴィコード固有のものをここに記載しました。)

Fretted clavichord フレッテッドクラヴィコード

 弦を2つ以上のキーで共有するクラヴィコード

弦を共有しているところでは、当然ながら、この2つは同時には音が出ない。 クラヴィコードはもともとモノコルドから発達したので、16世紀まではいくつものキーで弦を共有することが多かった。 2つのキーで同じ弦を使うものをdouble fretted clavichord ダブルフレッテッドクラヴィコードと呼び、17世紀に多く作られた。 弦の数を少なくできるので比較的軽く、また、持ち運べるものが多い。

 

damper rail/ tangent rail ダンパーレール/タンジェントレール

 タンジェントのすぐ左、消音用のフェルト(listing cloth)の上にあり、弦が上に上がるのを抑える働きをする。

 

これを付けるとキーがある深さより下へは行きにくくなり、弾きやすくなるものと思われる。 なお、このダンパーレール/タンジェントレールは容易に取り外せるようになっている事が多い。

 

diatonically unfretted clavichord ダイアトニカリー・アンフレッテッドクラヴィコード

 ドレミファソラシドとナチュラルキーだけを弾けば弦を共有する事が無いクラヴィコード

一般に、ダブルフレッテッドクラヴィコードはこの様に作られるのでダブルフレッテッドクラヴィコードと同じ意味であることが多い。

 

fretting system フレッティング・システム

 フレッテッドクラヴィコードにおいては2つあるいはそれ以上のキーで同じ弦を使用するが、どのキーとどのキーが同じ弦を使用するかを表したもの、あるいは表すこと。 例えば、ダブルフレッテッドクラヴィコードにおいては楽器によってフレッティング・システムが次の様に少し異なる場合がある。

c-cis  d  es-e f-fis g-gis a b-h

c-cis d-dis e f-fis g-gis a b-h

-は弦を共有していることを示す。

 

listing cloth

 タンジェントに左側にあり、弦振動を止めるためのもの。 現代ではフェルトが多く使われている。

古くは皮だったという話を聞いたことがある。 フェルトはノイズが大きいのでなめし皮の方が良いかもしれない。 なお、listing clothは日本語にするとバイアステープに相当する。 細長い布なのでこう呼ばれる。

 

tangent タンジェント

 弦を突き上げる金属片 

タンジェントは真鍮でできたものが多い。

 

Unfrettedo clavichord アンフレッテッドクラヴィコード

 弦を共有せず、ぞれぞれのキーに専用の弦があるクラヴィコード

 

このような楽器は18世紀になるとともに出現した。 5オクターブのアンフレッテッドクラヴィコードは120本の弦を調律する必要がある。 また、18世紀には、クラヴィコード用にスタンドが作られ、専用のスタンドに載ったものが現れる。 アンフレッテッドクラヴィコードは大型なので、専用の台に載っていることが多い。